【工商時報_名家評論コラム】 ESG実践の3ステップ

2023-10-16

企業が存在する目的とは、なんでしょうか。株主の価値を最大化するか、それとも他の意味があるか。チューリング製薬のCEO(最高経営責任者)マーチン・シュクレリ氏ががんとエイズを治療するダラプリムの製造販売権を買収した後、薬価を1錠13.50ドルから一気に55倍以上の750ドルに値上げすると発表した。この

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企業が存在する目的とは、なんでしょうか。株主の価値を最大化するか、それとも他の意味があるか。チューリング製薬のCEO(最高経営責任者)マーチン・シュクレリ氏ががんとエイズを治療するダラプリムの製造販売権を買収した後、薬価を1錠13.50ドルから一気に55倍以上の750ドルに値上げすると発表した。このような意思決定は株主の利益を大幅に上げたのに、間違っているのか。筆者が前に検察官を務めていた時、経済犯罪の捜査・起訴に際し、被告がこう言うことはよくあった。「全部株主のためにやったんだ、悪いか。」

 

■ 企業のビジョンを考え直す:株主だけのためじゃ足りない

これらの不正事案の中で、行為人が板挟みになるとき、結局カネを選ぶことになったのである。それと同時に、「全部株主のためだ」という言い訳で自分で納得している。しかし本当にそうするべきであったか。今まで社会や投資者の心を痛ませ、全財産を失わせてしまった不正事案(エンロンショック、ワールドコムの粉飾会計、博達科技の不正な利益移転)が発生したからこそ、企業が存在する目的を考え直すべきではないか。

2019年、米国の有名企業CEOからなる円卓会議は、数十年の共同宣言を変更した。企業が存在する目的は、株主(shareholder)のためだけではなく、従業員やクライアント、サプライヤー、そしてコミュニティ等の利害関係者も含まれらなければならないことを改めて宣言した。

自分さえ飢えているのに、他人のことは知らんわと思うのも当然のように、株主のために儲からなければ、株主に怒られてしまう。このような考えに対し、経営思想家のジム・コリンズが「偉大な」組織等の実証事例を調べた後、『ビジョナリー・カンパニーZERO』において指摘したことを引用したい。「…時代を超えて存続する偉大な企業をつくりたいならビジョンが必要だ。」だが、「金儲けのためにビジョンは要らない。」また、「金儲けで成功を定義すれば、ずっと敗者でいる。」

 

■社内に浸透させる:全ての社員と共有する

企業のビジョンを確立してから、組織の至る所に浸透させ、社員一人ひとりに刷り込まれることは次の重要なステップである。コンプライアンス等の制度確立を手伝わせていただく時、「このことをする理由は何ですか」と聞くと、「上司に言われたから」、「今までこうしてきたから」等をよく耳にしており、「今日は何をしに来た」のような答えまであった。社員たちにはっきりとしたビジョンがなく、何のためにするのか分からなければ、働く原動力を失うだけではなく、異なる部門や派閥が互いに非難したり、責任を逃れたりすることは生じかねない。

したがって、管理階層(取締役会)は形ばかりではなく(これらのテーマにつき報告を聞いて何の意見も示さないのではなく、充分に議論すること)、実態に落とし込む決心を見せらなければならない(例えば、取締役会レベルで永続的発展委員会を設置することを検討すること)。それと同時に、エンパワーメント(権限付与。社員を尊敬し、使命感を持たせること)やコミュニケーションと理念共有(例えば教育訓練)、論議(例えば各部署の定期的なブレインストーミング会議)を通じて、仕事と永続的発展との真意を社員たちに認知させ、上から下に貫く雰囲気を醸し出す。ジム・コリンズが前掲の本において、ある飛行機部品製造メーカーの例を言及した。その企業には従業員欠勤や生産力低下、仕事が投げ遣り等、問題が大変なのに、社員たちにその仕事の重要性を理解させたことはなかった。したがって、1台の爆撃機を工場の中に運び入れ、パイロットを招待し説明していただくことにより、自分たちが製造している飛行機の部品はパイロットと国の安全を守っている重要なものであることを認知してもらうと、振るわなかった士気が一気に上がったのである。

 

■対外発信:利害関係者の立場に立つ

組織のリーダーが社員と心を一つにして、更に株主、投資者、クライアント、サプライヤー、所轄官庁、メディア等利害関係者たちに支持されることは、もう一つのカギになる。これに対し、人間性から説明したい。要するに、他人に信頼されたければ、「コミュニケーション」は極めて重要である。自分が知っていることを隠さずに全て相手に伝えないともめやすい(深刻に言えば訴訟になる)。簡単に言うと、情報の格差を埋めることは人と信頼を築く重要なカギとなる。

 よって、上場・店頭公開企業にとって、管理階層が株主・投資者との意思疎通は、企業のホームページや公開情報観測システムのほか、もっとも正式なのは財務諸表と(財務情報ではない)ESGレポートである。情報の格差を是正するために、これらのレポートは即時で正確でなければならない。また、ESGレポートの内容は一体SASB準則若しくはGRI準則、それともTCFD準則に従うべきか、思い詰めるかもしれない。作成の詳細は長くなるので割愛するが、ここで強調したいのは、どの準則に従っても、ESGレポートは意思疎通のために作成されたものであり、作文コンクールに参加するためではないことを頭に入れていただきたい。そのため、利害関係者の立場に立って、彼らがほしいものを考えらなければならない。そうすれば、何を伝えれば相手が安心するのかは分かるはず。

 

 

この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://www.ctee.com.tw/news/20231016700079-439901