A社は世界的に有名なLEDメーカーであり、2022年1月から、競合他社が製造したLED商品が自社の特許を侵害した理由で総合スーパー、スーパーマーケット、配管・電気工事店、Eコマースおよびショッピングプラットフォームなど80社以上の販売業者に指定された期限内に権利侵害商品の取り下げを要求する警告書を次々と送付した。これらの販売業者は、特許権侵害訴訟に巻き込まれないように商品を撤去したり、サプライヤーに非侵害保証の提供を要求したり、一部の中小企業はそれにより市場撤退や不当な和解条件を受け入れることを余儀なくされた。
公平取引委員会(以下公平会という)は通報を受けて調査を開始し、近日次のように処分を下した。A社が警告書を送付した際、〈事業が著作権・商標権・特許権侵害警告書を送付する案件に対する公平取引委員会の処理原則〉(以下「警告書処理原則」という)で定められた手続きを実行しなかったため、明らかに取引秩序を影響し得る不公正行為であると判断され、公平取引法(以下公平法という)第25条を違反することになる。A社の動機、行為の影響、市場での地位、調査に協力する状況などを鑑み、公平法第42条により、A社に200万新台湾ドルの罰金を処し、そのような警告書の送付を直ちに停止するよう命じた。
公平会は次のことを強調している。登録権者が公平法第45条により、その権利を侵害するおそれのある者に対して侵害排除を請求することはできるものの、その権利行使は濫用してはならない。企業が権利侵害の警告書を送付する前に、公平会が定めた「警告書処理原則」に基づき第3点の手続のいずれを行うか、第4点に規定されている各手続きを完全に行わなければならない。
A社が警告書を送付する前に、裁判所から特許権侵害が認定された一審判決を取得しておらず、専門機関を依頼して係争商品について鑑定報告も作成しておらず、自ら整理した製品リストと社内の分析報告のみ添付したため、販売業者は権利侵害の事実を十分に把握することができず、「警告書処理原則」第3点に規定している手続を順守しなかったことは明らかである。
また、A社は警告書を送付する前に、事前もしくは同時に商品の製造メーカーに知らせて侵害排除を請求しておらず、特許権の内容や範囲、侵害された具体的な事実も書いていなく、明らかに「警告書処理原則」第4点で定まられた手続を順守しなかった。また、一部の製造メーカーには事前に知らせたものの、その通知に開示された権利侵害商品の品目は、同社が川下の販売業者に送付した警告書に書いた権利侵害商品の品目と一致していなく、むしろ販売業者に送付した警告書に書いた権利侵害商品の品目の方が製造メーカーに送付した通知で開示された品目より多かった。さらに、3日内もしくは1週内という短い期間内に権利侵害商品を取り下げるように要求しており、80社以上の中小型の配管・電気工事店などの販売業者に対し、100通以上の警告書を継続的に送付したため、販売業者が競合他社の商品を撤去、または販売を取りやめることになった。
以上をまとめると、公平会は、A社が本原則に基づく必要な手続きを順守しておらず、直接に多くの販売業者に警告書を送付したことは、中小型の業者に販売上の困惑をもたらし、萎縮効果をもたらしたと判断した。また、製造メーカーも権利侵害の紛争内容を把握することができず、係争商品の権利侵害有無につき防御を主張できないため、A社の警告書送付行為自体は、市場競争秩序に実質的な影響を及ぼしており、公平法第25条を違反したこととなる。
この処分は、企業が知的財産権を行使するとき、公平法の関連規定を順守すべきことを改めて認識させるものである。特に競合他社のクライアントに権利侵害警告書を送付する前に、公平会の「警告書処理原則」の関連規定を順守するように注意し、公平法違反で競争相手に通報されることを回避する必要がある。公平法に違反したと判断された場合、高額の行政罰金のほか、その違法行為によって損害を被るメーカーは、さらに公平法第30条、第31条に基づき、損害賠償を請求することができる。違反が故意である場合、損害賠償責任は、被害メーカーが立証した損害金額の3倍以内に増額する可能性があるので、注意しなければならない。
[1] 公正取引委員会処分書(公処字第113058号):https://www.ftc.gov.tw/uploadDecision/693c4def-79cc-4b14-b399-03d047c388d5.pdf
[2] 公正取引委員会による著作権、商標権、特許権等の侵害に関する事業者からの警告書送付案件に関する処理原則:https://www.ftc.gov.tw/internet/main/doc/docDetail.aspx?uid=163&docid=224