「工商時報_名家評論コラム」: キリのない競業避止約款

2022-07-22

「競業避止約款」とは、企業はその営業秘密、営業利益や企業秘密を保護、又はその競争の優位を維持するために、従業員が退職後、一定な期間・地域において、それと同じもしくは類似した業務内容を経営、又は雇用されてはならないことを要求することをいう。

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 「競業避止約款」とは、企業はその営業秘密、営業利益や企業秘密を保護、又はその競争の優位を維持するために、従業員が退職後、一定な期間・地域において、それと同じもしくは類似した業務内容を経営、又は雇用されてはならないことを要求することをいう。競業避止約款は、従業員が元使用者と不公平に競争することを防止し、企業の営業利益を保護し、企業間の人件費競い合いの軽減等のメリットがある。それに対し、従業員の職業を選択する自由や勤労権、生存権を侵害し、労働市場の競争を妨げる等のデメリットが挙げられる。

 台湾の企業が従業員と退職後の競業避止約款を締結する状況は、非常によくある。使用者の営業秘密や正当な営業利益と、労働者が退職後に就業する権利をバランスよく保障するために、台湾の労働基準法が2015年に改正され、第9条の1を新たに規定した。使用者は、書面をもって労働者と競業避止を約束し、その禁止年限は2年を超えてはならない上、次の4つの要件も満たさなければならない。

使用者には、守るべき正当な営業利益がある。
労働者が担当する役職もしくは職務は、使用者の営業秘密を接触、又は利用することができる。
競業避止の存続期間、限定された地域、業務範囲及び就業対象は、合理的な範囲を超えていない。
使用者は、労働者が競業行為を従事しないことに対し、代償措置を講じている。上掲の各号規定の1つでも違反した場合、競業避止約款は無効になる。

 科学技術の発展につれ、情報の流通が益々便利になり、企業の営業範囲も1つの市場に限らず、グローバル化になりつつある。企業の営業範囲がグローバル的であれば、地域制限のない競業避止約款を従業員と約束してもよいか。地域制限のない競業避止約款は、裁判所に第9条の1第1項第3号でいう「合理的範囲」であると認められるか。

 上掲の問題について、近時の司法実務上では有名な事例が1つある。TSMCは、その購買・調達部の経理と次の競業避止約款を約束した:「退職後18ヶ月以内に、現在もしくは将来半導体ウェハー製造及びその関連サービスを従事する業者に雇用され、又は競争相手のためにサービスを提供し、又は会社もしくはその他商業組織を設立しTSMCの製造過程とサービスと競争する行為を従事してはならない。」同経理は退職後、競業避止約款の存続期間に中国の紫光集団傘下のYMTC(長江メモリ)、XMC(武漢新芯集成電路製造)の購買部門の副総裁になった。そのため、TSMCはその従業員に賠償を求め、一審では、従業員がTSMCに250万元を賠償しなければならないという判決を下した。同従業員は控訴、上告したものの、第二審も第三審もその控訴、上告を棄却し、確定したのである。

 裁判所の見解では、今日はグローバル化の競争市場であり、TSMCは世界中に知らされている有名なウェハー受託製造事業として、各国の半導体業者から競争対象にされている。したがって、当該競争避止約款が地域を制限していないことは、必要であり、不当ではない。

 しかしながら、多数の司法実務の見解は、競業避止の地域に特定した範囲制限が必要であると考え、企業の営業範囲と一致しないと競業避止約款の効力を認めないのである。経済部2021年「中小企業白書」の記載によれば、台湾の中小企業の数は154万8,835社であり、企業全体の98.93%を占めている。中小企業の就業人数は931万1千人にも及び、全国の総就業人数の80.94%を占めており、台湾の産業構造の中心は中小企業であることを示している。

 「台湾の大黒柱」たるTSMCとその従業員とのキリのない競業避止約款は、実は多くの中小企業に適用させることができない。競業避止約款を作成する時、裁判所に合理的な範囲を超えたと認められることを避けるため、制限地域と企業の守るべき正当な営業利益と合理的な関係性のあることを斟酌しなければならない。

 伝統的な法律関係は、物理的な範囲をもって競業避止約款の営業制限地域を定めたが、将来はインターネットサービス業に、そしてメタバースのような仮想と現実が混じっているデジタル空間に如何に応用するかは、今後の課題になる。
(この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://view.ctee.com.tw/tax/42691.html