企業がよく犯す過ちは情報不足ではなく、人間の認知のバイアスから生じる場合が多いものだ。その中で、最も危険な認知の罠は、現状維持バイアス(Status Quo Bias)とコミットメントのエスカレーション(Escalation of Commitment)である。
現状維持バイアスは、変化に直面しても現状を維持することを選択し、革新するタイミングを見逃してしまう。コミットメントのエスカレーションとは、過去の過ちを認めたくないため、失敗に傾いている企画を引き続き投資を増やし、損失が拡大してしまうことである。この2つの心理的メカニズムを適時に意識できないと、企業は長期的なリソースの誤配分に陥ってしまうことになる。
このような意思決定のジレンマにおいて、独立取締役の役割は欠かせない。独立取締役は単に出席して署名するだけではなく、取締役会の中で理性的で警戒心の象徴となるべきだ。
■取締役会によくある「コミットメントのエスカレーション」現象
コーポレートガバナンスが失敗した多くの事例は、問題の兆候が早期に現れたものの、取締役会に異論を唱える声がなかったため、意思決定に偏りが生じてしまったのである。
次は、よくある3つの「コミットメントのエスカレーション」現象である。
1. 投資プロジェクトが赤字を出し続けても止まらない。初期投資が無駄になることが悔しいから、市場の反応が芳ばしくなくても資本を注入し続ける。
2. 買収統合が失敗してもリソースを追加する。会社の面目とのれんを守るために、合併や買収に関する判断が間違ったことを認めできず、赤字が継続的に拡大してしまう
3. 上級管理職が明らかに職務に不適格なのに、調整をしない。個人的なつながりやこれまでの貢献、社内関係などにより、取締役会は何も言わないこ
とにしており、やる気と効率に支障をきたす。
これらの状況における真の問題は情報不足ではなく、理性的に「ブレーキを踏む」者がいないことである。
■独立取締役の具体的な役目
独立取締役が真価を発揮するには、次に挙げる3つの側面から取り組まなければならない。
1. 中止する条件を設定する。大規模のプロジェクトは、意地張りを回避するために、主要な業績評価指標に達成されない時のレビューなど、撤退するしきい値を事前に設定する必要がある。
2. 意思決定のエコーチェンバー化を突破する。反対の視点を取り入れたり、「レッドチーム・メカニズム」を設けたりするなど、反対意見が聞かれるだけではなく、制度化されるようにする
3. 認知意識の向上:「沈黙のコストは回収できない」、「損失嫌悪は判断を歪める」など行為経済学の基本的な概念を取締役会に理解していただき、心理的防衛メカニズムを確立する
■独立取締役が「発言する勇気を持ち、発言することができ、その発言が会社の役に立つ」ようにする
企業は本当に独立取締役にその役目を果たしてもらいたいのであれば、制度上と文化上の支援を提供する必要がある。
1. 情報透明:適時で完全かつ公平な資料を独立取締役に提供し、その監督を有効にする。
2. 役割を尊重:形式的な一致を求めるではなく、異なる声や挑戦を奨励する。
3. 発言の制度化:定期的な質疑応答の時間を確立したり、重大なプロジェクトに対し質疑する機会を設けたりすることにより、独立取締役が法に基づいて意見表明できるようにする。
過ちは沈黙によって消えない。本当に理性的なコーポレートガバナンスは、誰かが勇気をもって、「我々は間違っているかもしれない」を言い出す必要がある。
独立取締役の価値は、まさに間違いが修正できる前に、その停止ボタンを押すのである。
この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://www.ctee.com.tw/news/20250514700132-431303